短歌厚木水甕 澪の会

神奈川県厚木市の短歌会「澪の会」のブログです

*各評は講師の砂田や会の皆様から出た意見をブログ管理人(畠山)が独自にまとめたものです。各歌の著作権は各作者にあり、ブログ内で例として挙げた歌で著者名を記していないものの著作権は私(畠山)にありますので、そのまま真似してどこかに投稿したりは絶対にしないでくださいね。尚、「こう直したらどうでしょう・こんな感じに歌ってみたらどうでしょう」として書いている歌はその歌の原作者様(各歌の()内の名前の方)に著作権があるものとします。

◆歌会報 2023年8月 (その2)

◆歌会報 2023年8月 (その2)

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第135回(2023/08/25) 澪の会詠草(その2)

 

13・ランタナの咲くをイメージ隅田川ふるさと長野の花火入賞(山本)


ランタナ

ja.wikipedia.org

の花が咲くイメージで作られた故郷の長野の花火が、隅田川の花火大会で入賞をした、という内容だと思いますが、一首に入れるには核が絞り切れていないかな、と思います。

言いたいことが多すぎるため単語を詰め込むだけで三十一音が一杯になってしまい、助詞も入らず言葉がブツ切れてしまいます。

ランタナをイメージした花火がどう(鮮やかに・可憐に・色とりどりに)上がった

・どのように(色鮮やかに・七色の色に・可憐にぽんぽん)上がる花火はふるさとの長野の業者が作ったものだ

・ふるさとの長野の作った新作花火が隅田川の大会で入賞した

の三つくらいには分けられる内容だと思うので、どこを一番歌いたいのか考えてみてください。いっそのこと三首連作で作ってみると良い練習になると思うので、是非挑戦してみてくださいね。

 

14・こぼれ種 日照り続きの土に生き百日草の赤い花咲く(鳥澤)

こぼれ種が日照りの続く土にも健気に育ち、百日草の赤い花が咲いた。

「こぼれ種日照り…」と続くと読みづらいということで一字空白を置いたのだと思いますが、場面や視点、流れが大きく変わる部分ではないためここに一呼吸入れる必要はあまりないかなぁと思います。

「ひでり」をひらがなにすればとの案も出ていましたが、画数多く重い漢字でもないのでそのまま「日照り」で続けてもいいのでは、と思います。

また「こぼれ種ひでり続きの土に生く」「こぼれ種日照りの続く土に生く」などとして上の句に終止形を置いて切り、下の句で「百日草の花赤々と」「百日草の赤々と咲く」など百日草の咲いている姿にフォーカスするとより鮮やかな場面が見えてくると思います。

コンクリートの僅かな隙間で育っている雑草などもそうですけど、人の助けがない場所で頑張って育っているこぼれ種って健気さと同時に強さも感じて、何だか応援したくなりますよね。

 

15・餌取れず何度も降下カワセミの勝負の青が風きる川面(小夜)

「勝負の青」という表現がとても良いですね!

「何度も降下する」という場面も、しっかりとした観察からくる具体的な表現でとても自然に場面が見えてきます。

「何度も降下」と「勝負の青」が強く鮮やかなイメージを作り上げているので、逆に「風きる」は少し目立たない表現に抑えた方がいいかもしれません。

また初句の「餌取れず」という部分が少し理屈っぽく感じてしまう(餌が取れないので、と理由を述べている)ため、「餌狙い」などにした方がいいのでは、と思いました。

餌狙い何度も降下のカワセミの勝負の青が川面を走る

などとしてはどうでしょうか。

場面がしっかり見えてくるとても良い歌だと思います。この調子です。

 

16・葉月朝快晴の空に音がして小さな飛機の天中に居り(栗田)

音がしてふと見上げたら、夏の強い光をキラリとはね返すような小さな飛行機が見えたのではないでしょうか。八月のもう既に暑い予感がする明るい空の光景が思い浮かびますね。

「葉月朝快晴の」と漢字が続き、重く読みづらいので、初句は「夏の朝」くらいにしてひらがなを入れて軽くしてしまいましょう。意味に迷う位置でもないので「朝」すらひらがなでもいいかもしれません。

また普通「飛機」とはあまり言いませんよね。普通に「飛行機」でいいと思います。また飛行機は生き物ではないので「居り」よりも「在り」という方がしっくりくる気がします。

夏のあさ快晴の空に音がして小さな飛行機天中にあり

としてはどうでしょうか。

 

17・孫の香の残れる部屋に折り紙の赤いハートにありがとうの字(金澤)

嬉しい置き土産ですね。捨てられずに大切にしまい込んでしまいそう(笑)。

「部屋に」と「ハートに」で「に」が被ってしまうので、どちらかを変えたいですね。「へ」というと対象に広がりを感じ、「に」というと対象を限定する感じですね。そうすると視線を集中したい「赤いハート」に「に」を使いたいので「部屋」の方を「へ」に変えましょう。部屋にバーンと置いてあるのではなく、部屋へそっと置いてあるイメージになりますね。

また結句の「ありがとうの字」ですが、ただ形として見るなら「字」でもいいのですが(字が上手い・読みやすい字など)、意味を込めたものとして見るなら「文字」を使う方が一般的かと思います。

ただ結句ですし、意味は通りますから音数を重視して「字」とするか、自然さを重視して字余りでも「文字」とするかは迷うところですね。

字余りとしても、読んでみてそれほどもたつく感じもないか、もったり気になる感じか。何度か口に出して読んでみて最終的には作者の判断で決めてください。

 

18・夏の夕居ずまい正し朗々と謡いの稽古老いし日の父(飯島)

夏の夕方に居ずまいを正して朗々と謡(うたい)の稽古をする在りし日の老いた父の姿を思い出す作者。

「謡の稽古」という助詞が必要かなと思います。

また「居ずまい正し朗々と」はやや概念的かなぁと。特に「朗々と」は大雑把な表現なので、そんな情報よりももっと作者の目で見た情報が欲しいところです。

「とたんに背筋がすっと伸び」とか「正座の背筋はまっすぐに」とか、作者から見たお父様の「居ずまい」を具体的に描いて欲しいかなと思いました。

 

19・目が合うも素知らぬ猫は太っちょの体揺らして庭を横切る(川井)

「太っちょの体揺らして」が具体的なのでとてもユニークな光景がしっかり見えてきますね。

「素知らぬ顔」「見知らぬ猫」とは言いますが「素知らぬ猫」とは繋がらないと思うので、「素知らぬ顔に~猫が横切る」とした方が自然かと思います。

警戒が必要な相手や距離をしっかり把握してるんですよね。作者をチラッと見て「こいつは大丈夫」と判断した野良猫の様子がとてもよく伝わってきます。

 

20・一輪の露草鉢の片隅に凛とし咲きぬ鮮やかな青(名田部)

いつの間にこんなところに、というこぼれ種ですね。

「露草鉢の」と、字余りでも助詞が必要だと思います。少し漢字が多く重い印象になってしまうので、「露草」や「片隅」など意味の迷わないものをひらがなにして印象を柔らかにすると歌らしさが増すと思います。どちらをひらがなにするか、どちらもひらがなにするか、など書いてみて比べてみてください。

また「凜とし(する)咲きぬ(咲いた)」だと動詞が二重でくどいのと時系列で迷ってしまうので「凜と咲きたり」として整えましょう。

また結句はこのまま「鮮やかな青」でもいいのですが「鮮やかに青」としてもいいのでは、と思うので比べてみてください。

一輪の露草が鉢のかたすみに凛と咲きたり鮮やかに青

最近は歌の場面がしっかり絞られてきて、読者も無理なく作者の見た素敵な情景を思い描けるようになってきたと思います。この調子です。

 

21・晴天にそよ吹く風の屋外プール水温も良く一気にクロール(戸塚)

「一気にクロール」が良いですね。今月の歌は二首とも(ワッショイワッショイ)躍動感を感じました。

「そよ吹く風の屋外プール」ではなく「風のそよ吹く屋外プール」ではないでしょうか。

また「水温も良く」というのは知識的な情報ですので、「水を飛ばして」「腕を伸ばして」など視覚的な情報を探して欲しいと思います。

 

22・文月尽水平線は雲の峰イソシギしきりにか細く鳴けり(緒方)

入道雲のことを雲の峰というらしいです。

とすると「水平線」ではないでしょうか。

水平線の上にもくもくと入道雲の大きな山が湧き立っている。そんな広く大きな景色とイソシギのか細い鳴き声の対比が描きたかったのではないでしょうか。

ただイソシギのか細さに対して「文月尽」という情報でその対比が描けるでしょうか。

初句は軽く入った方がいいとはよく言いますが、今回は広大な景色に対するイソシギのか細さから感じる何とも言えない不安感、心もとなさが核だと思うので、景色(自然)の大きさについて述べないわけにはいかないのでは、と思います。「雲の峰水平線に聳え立つ」「高々と水平線に雲の峰」「もくもくと水平線に山湧きぬ」など夏の雲と分かり、広さ大きさが表せる情報が入ると対比が活きてくるのではないかと思います。

 

23・イカに塩、トマトに砂糖幼日の井戸に冷やしし朝の捥ぎたて(小幡)

朝の捥ぎたてを井戸に冷やしていた遠い昔、という場面は昭和情緒たっぷりでとても良いと思います。

ただ下の句が朝の捥ぎたて(野菜)を水に冷やす描写であるのに対し、上の句は「食べ方」の描写であるため、場面と時系列にズレが出てしまっていると思います。

「西瓜、茄子、トマトに胡瓜 幼日の~」と一首まるまる「朝の捥ぎたて」についてまとめてしまった方が良いのではないでしょうか。

「スイカに塩、トマトに砂糖」という子供の頃によくやった食べ方、という題材も面白いのでそれはそれで一首詠んでみせて欲しいですね。

 

24・新しき〈開発予定〉の看板の下をかさこそ蜥蜴(とかげ)が行けり(畠山)

〈開発予定〉と書かれた看板の下を、そんなことは微塵も知らないトカゲがいつも通り棲家に戻るようにかさかさーっと走って行った場面を詠んでみました。

「かさこそと行く」だけでは何か弱い、と言われたのですが、うーん、どうしたものやら。

かさこそと陰を探して蜥蜴行く〈開発予定〉の看板の下

とかでどうでしょうかね。突然に人間の都合で立った〈開発予定〉の看板ということで「新しき」は入れたかった気もするのですが…。

これまた人間のせいによる酷暑の中、少しでも日影を求めて入って行くのが〈開発予定〉の看板の影っていうのも皮肉ですよね。

 

25・熱中症警戒の街ガラガラと宅配人の台車ひびかう(御園生)

熱中症警戒アラートが出され人の姿のない街に宅配人の台車の音がガラガラと響き渡る。

この暑さの中、外のお仕事に携わる人は本当に大変ですよね。頭が下がります。

熱中症警戒の街はがらんどう」と街に人がいないことを描写するか、「熱中症警戒の街へガラガラと」と台車の音を描写するかで迷ったということです。

結句が「台車」なのでやはりこの時作者の印象に強く残ったのは「音」の方なのではないかなと思うので、私は「ガラガラと」の方に一票入れたいと思います。

そして「街ガラガラと」と助詞が必要かなと思います。

 

 

☆今月の好評歌は16番、栗田さんの

夏のあさ快晴の空に音がして小さな飛行機天中にあり

となりました(修正版)。

夏の眩しいくらい明るい快晴の空に飛ぶ飛行機を見る作者の「今日も暑くなりそうだなぁ」なんて声が聞こえてきそうですね。

by sozaijiten Image Book 10