短歌厚木水甕 澪の会

神奈川県厚木市の短歌会「澪の会」のブログです

*各評は講師の砂田や会の皆様から出た意見をブログ管理人(畠山)が独自にまとめたものです。各歌の著作権は各作者にあり、ブログ内で例として挙げた歌で著者名を記していないものの著作権は私(畠山)にありますので、そのまま真似してどこかに投稿したりは絶対にしないでくださいね。尚、「こう直したらどうでしょう・こんな感じに歌ってみたらどうでしょう」として書いている歌はその歌の原作者様(各歌の()内の名前の方)に著作権があるものとします。

◆旧カナ、新カナ

自分が新カナ(現代仮名遣い)で歌を作るか、旧カナ(歴史的仮名遣い)で作るかは自由です。

でも一度決めたら統一しなければいけません。一首ごとに変えたり、更には一首の中で混ぜこぜにしたりしてはいけません

 

でも「最初の頃はよく使う新カナで始めたけどこれからは旧カナでいきたい!」「カッコ良さそうだから旧カナで作っていたけど、難しいし、イマイチ自分が表現できないからやっぱり新カナで作りたい!」という変更はOKです。

ただし一度変えたらそちらで通して下さいね。

そして旧カナを使う場合は、今では日常で使う言葉ではないのでより注意して使いましょう。

 

基本ルールとして次のものがあります。

 

1・旧カナ・ハ行の変化

新カナ「(語頭以外の)わ・い・う・え・お」→旧カナ「は・ひ・ふ・へ・ほ」

例:ひまわり→ひまはり、ゆうべ→ゆふべ、あわれ→あはれ、におう→にほふ など

 

2・旧カナ・ワ行の変化

新カナ「い・え・お」→旧カナ「ゐ・ゑ・を」

例:いる→ゐる、こえ→こゑ、おわり→をはり など

 

3・推量の助動詞「む」

推量・意志・適当・勧誘・婉曲・仮定の助動詞として使われる新カナ「ん」→旧カナ「む」

具体的には「む」「らむ」「けむ」「なむ」など。

例:あらん限り→あらむ限り、~せん→~せむ、言わんとす→言はむとす など

 

4・旧カナ・ダ行「ぢ・づ」

新カナ「じ・ず」→旧カナ「ぢ・づ」

例:閉じる→とぢる、しずかに→しづかに など

 

5・旧カナ「くわ・ぐわ」

新カナ「か・が」→旧カナ「くわ・ぐわ」

例:観念(かんねん)→くわんねん、願望(がんぼう)→ぐわんぼう、元日(がんじつ)→ぐわんじつ など。漢字で書くものが多いのであまり使わないかも。

 

6・旧カナに小さい文字はない

新カナ「っ・ゃ・ょ」→旧カナ「つ・や・よ」

例:しっとり→しつとり、ちゃんと→ちやんと、ちょっと→ちよつと など

 

7・「ウ」に続く連続母音の変化

各子音+新「おう」→旧「あう」、新「ゅう」→旧「いう」、新「ょう」→旧「えう・やう」

 

 

この番がちょっと複雑なので解説しますね。

 

母音が連続するというのは、各子音+母音(ア・イ・ウ・エ・オ)の母音部分が連続することです。各子音+「アア・アウ・イウ・オウ・エイ・オオなど」ですね。例えば「かあさん」の「かあ」。子音「k」+母音「アア」ですね。「頁(ぺいじ)」は子音「p」+母音「エイ」、「氷(こおり)」は子音「k」+母音「オオ」です。

 

この様に母音が連続する言葉の中で「ウ」へ続くものが旧カナと新カナでは表記が変わります。

具体的には「アウ」「イウ」「ウウ」「エウ」「オウ」の五つですね。

 

動詞の「ウ」

この「ウ」ですが、動詞の活用で変化する「ウ」の場合は①のルールに従い「ふ」となります。

例:「舞う(m+アウ)」→「舞ふ(m+アウ+①→まふ)」、「言う(イウ)」→「言ふ(イウ+①→いふ)」、「食う」→「食ふ(k+ウウ+①→くふ)」、「憂う(r+エウ)」→「憂ふ(r+エウ+①→うれふ)」、「請う(k+オウ)」→「請ふ(k+オウ+①→こふ)」 など。

 

またこの動詞の活用で変化する「ウ[新]」→「ふ[旧]」となる言葉はそれぞれ旧カナでは「ハ行」で活用します。

未然(~ない)「は」・連用(~ます)「ひ」・終止(。)「ふ」・連体(~とき)「ふ」・仮定(~ば)「へ」・命令(!)「へ」ですね。

 

 

さて、動詞ではない「アウ[旧]」。これは新カナでは「オウ[新]」へと変化しました。

新カナで「オウ」という響きを含む言葉が出てきたら、これは旧カナでは「アウ」ではなかったかな、と疑ってみて下さい。

 

「オウ[新]」→「アウ[旧]」変化

「オウ[新]→アウ[旧]」の変化例:「そうだね(s+オウ)」→「さうだね(s+アウ)」、「好感(こうかん)(k+オウ)」→「かうかん(k+アウ)」、「漸く(ようやく)(y+オウ)」→「やうやく(y+アウ)」、「ようよう白くなりゆく(y+オウ)」→「やうやう白くなりゆく(y+アウ)」 など。

 

新カナで子音+「オウ」と発音・表記されるものの多くは旧カナでは子音+「アウ」と表記されていました。

ただ旧カナ「アウ」から新カナ「オウ」に直す場合はこのルールに則れば問題ありませんが、新カナの「オウ」が全て旧カナで「アウ」になるわけではないので注意も必要です。例えば「当番(とうばん)(t+オウ)」は「たうばん(t+アウ)」に変わりますが、「登板(とうばん)」は「とうばん」のまま変わりません。

それでも現在「オウ」と母音が続く言葉の多くが旧カナでは「アウ」に変化するので、「オウ」を含む言葉を旧カナで使おうと思ったら注意して、分からなかったら辞書を引いてください。

 

続いて「イウ」と「エウ」の母音続きの場合の説明をします。

旧カナには小さい文字はないと言いましたよね。新カナの「ゅう」「ょう」を見かけたらこれだ!と思ってください。

「ュウ[新]→イウ[旧]」変化と「ョウ[新]→エウ・ヤウ[旧]」変化です。

 

「ュウ[新]→イウ[旧]」変化

例:「胡瓜(きゅうり)」→「きうり(k+イウ)」、「秀逸(しゅういつ)」→「しういつ(s+イウ)」

 

「ョウ[新]→エウ・ヤウ[旧]」変化

 

例1:「ョウ→エウ」変化

「超越(ちょうえつ)」→「てうえつ(t+エウ)」、「表裏(ひょうり)」→「へうり(h+エウ)」、「教習(きょうしゅう)」→「けうしふ(k+エウ)+(s+イウ+①=しふ)」

例2:「ョウ→ヤウ」変化

「聴覚(ちょうかく)」→「ちやうかく(t+y+ァウ)」、「良案(りょうあん)」→「りやうあん(r+y+ァウ)、「郷愁(きょうしゅう)→「きやうしう(k+y+ァウ)+(s+イウ)」

 

「ョウ[新]」は通常は「エウ[旧]」が変化したものですが、旧カナで子音「y」に続く「ァウ」=「ヤウ(y+ァウ)」に先ほどの「アウ[旧]→オウ[新]」変化が適用されて「ョウ(y+ォウ)」へと変化しているものもあります。その場合の「ョウ[新]」の旧カナは「ヤウ[旧]」となります。

ただし旧カナに小文字の「ァ」はないので「やう(y+アウ)[旧]」と「やう(y+ァウ)[旧]」の表記上での区別は付けられません。

昔は「アウ」と「ァウ」に差があって「y+ァウ」が「アウ[旧]→オウ[新]」の法則で「ョウ(y+ォウ)」に変化したものと、「エウ[旧]→ョウ[新]」の法則で変化したものとの区別が付いたのかもしれませんが、今では違いがよくわからず、知識として覚えるか辞書で引くしかないと思います。

 

「教習」と「郷愁」、旧カナ(けうしふ・きやうしう)から新カナ(きょうしゅう)へはどちらも法則に則って正しく変えられますが、新カナから旧カナへ変えようとしても区別は正直わかりませんね。

 

また「今日(きょう)」などは「子音k+ョウ→エウ=けう」という⑦のルールに更に①のルールが適用されて「けふ」となります。「蝶々(ちょうちょう)」なども同じですね。「子音t+ョウ→エウ」という⑦のルールで「てうてう」になり、更に①のルールで「てふてふ」となります。

 

ルール⑦を表にするとこうなります。

旧カナ

アウ

(ヤウ)

イウ

エウ

新カナ

オウ

(ョウ)

ュウ

ョウ

 

以上の①~⑦のルールをざっと頭に入れた上で、ルールにかすってそうなら「これはもしや旧カナ表記があるのでは?」と疑い、辞書で調べてみましょう。

 

例えば「あじさい」で調べると「あじさい あぢさゐ 【紫陽花】」というように出てきます。この場合新カナでは「あじさい」と書き、旧カナでは「あぢさゐ」と書きます。

また動詞の場合、例えば「会う」を調べると「あ-う あふ」と出ますね。この場合「会」は「あ」で確定し、「-」の先の「う」が送り仮名となり動詞の使い方(活用)によって変化します。

中学あたりで習いましたね。未然・連用・終止・連体・仮定・命令。それこそ歌の一節のように暗記させられた記憶があります。

「会う」の場合「-」の先の「う」が「わ」や「お」「い」「っ」「え」などに変わります。新カナでは「会わない・会おう、会います、会う、会うとき、会えば、会え」などですね。また口語では「会った、会って」など助動詞によって連用形の「い」が音便化することもあります。この「い」は「会・わ・ない」とあることからワ行の「う」や「い」であることが分かります。①のルールでワ行は旧カナだと「ハ行」になりますね。

古語では活用が変わり、「会はず、会ひて、会ふ、会ふこと、会へども、会へ」となります。

辞書を引くと[動ワ五(ハ四)]と書いてありますね。現代文では動詞でワ行五段活用。古語ではハ行四段活用ですよ、ということです。ここを見て、新カナの人はワ行五段活用、旧カナの人はハ行四段活用を使って下さい。

 

またイ音便の「い」を「ゐ」や「ひ」と書く人が意外と多いのですが、これは間違いなので注意です。例えば「書いて」の「い」ですが、これは「書きて」の「き」が音便で変化して「い」になったもの。口語(話し言葉)として使われる時に発音しやすく変化したものです。この音便化した「い」は「ゐ」や「ひ」にはなりません。辞書を引くと「書く」は[動カ五(四)]とあるので、旧カナの場合はカ行の四段活用をします。

何となく「書ひてをり」とか書くと古語っぽく見えるかもしれませんが間違いですよー!「書きてをり」です。更に古語の場合接続助詞の「て」は不要な場合が多いですから「書きをり」となるのが一般的です。

 

終止形にした時に「言ふ」「会ふ」など①のルールにより「う」が「ふ」になる言葉が連用活用した時に「言ひて」「会ひて」など「い」が「ひ」に変化します。

動詞が出てきたらまず終止形を思い浮かべてみましょう。動詞の終止形の送り仮名の行(「書く」の・く=カ行」と響きの行(「書い」の・い=あ行)が違っていたら音便化している可能性があります。

 

旧カナはとにかく迷ったら辞書!これしかありません。

ちょっと面倒くさいかもしれませんね。でも旧カナでなければ出せない空気というのもありますし、短歌という形に妙にしっくりくる言葉でもあるので旧カナでいこう!と思ったら辞書を引き引きチャレンジしてみて下さい。

新カナは新カナで新しい現代短歌という空気になるので、自分の歌いたい世界観に合わせて選び、統一して使いましょう。

ちなみに私は最初の6年くらいは新カナでしたが現在は旧カナです。私としては旧カナの方が自分の表現したいことを表しやすい気がしています。日常では使わない言葉遣いなのに、不思議ですね。

 

☆新カナか旧カナかどちらか決めて統一しよう。

☆迷ったら辞書! 旧カナは特に確認を。

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by 成願義夫「日本の伝統美素材集」