短歌厚木水甕 澪の会

神奈川県厚木市の短歌会「澪の会」のブログです

*各評は講師の砂田や会の皆様から出た意見をブログ管理人(畠山)が独自にまとめたものです。各歌の著作権は各作者にあり、ブログ内で例として挙げた歌で著者名を記していないものの著作権は私(畠山)にありますので、そのまま真似してどこかに投稿したりは絶対にしないでくださいね。尚、「こう直したらどうでしょう・こんな感じに歌ってみたらどうでしょう」として書いている歌はその歌の原作者様(各歌の()内の名前の方)に著作権があるものとします。

◆助詞でこんなに変わるの!? その2

◇省かれがちな「を」

 

普段話す言葉で一番省略されがちなのが「を」ではないでしょうか。目的語を示す助詞「を」ですが、確かに抜いても意味が通る場合は多いです。

「それ(を)取って~」とか「洗濯(を)した服」など。話し言葉では省略されている方が多いかもしれません。

文語に於いても「兎(を)追いしかの山」「奥山にもみぢ(を)踏み分け」など省略されている例も多々あります。

けれど特に何も考えずに「普段から抜いているし(無意識)」という感覚で抜いてはいけません。何のために省くのか。理由(音数を合わせるため、言葉の流れや勢いなど)はありますか?そこに「を」がなくても意味が通じますか?誤解を招くことにはなりませんか?あった方が自然な文章になりませんか?

「を」は省いても意味が通じる場合が多い助詞ですが、省く場合もちゃんと「本来ここには「を」が入るのだ」と認識してから省きましょう。

 

さて、必要な助詞は省いてはいけない。特に主体ははっきりさせる。これがまず大切です。

次に一番歌として適した助詞を選ぶ。これがまた難しいところです。

 

◇「に」と「へ」

 

短歌はあくまでも「歌」なので「調べ」が大事です。ですから口語では多用しがちな「で」という助詞は濁音なので出来れば避けたい傾向があります。短歌では大抵の「で」は「に」に置き換えることができます。口語ではあまり使わない言い方なので初めは違和感を覚えるかもしれませんが、短歌の世界ではごく自然な活用なのですぐに慣れるでしょう。

例えば「一日で慣れる」の「で」は「一日に慣れる」と言い換えます。「一日(のうち)に」と隠された意味合いを汲み取れば自然に使えるでしょう。

また「山で」「家で」など場所を示す場合の「で」も短歌では基本的には「に」「にて」に置き換えた方が無難です。「山で遊ぶ」は「山に遊ぶ」、「家で休む」は「家にて休む」などと言い換えられます。

「飛行機で行く」「英語で話す」なども「飛行機に行く」「英語に話す」となります。「~の方へ」という意味合いが強い口語的な「に」として考えてしまうと最初はちょっと違和感があるかもしれませんね。「にて」という意味合いで考え、「にて」の「て」を省略したかたちだと考えるとすんなり入るかもしれません。

 

口語では

1・移動する方向(遠くに行く、山に行くなど)

2・時間(五時に待ち合わせ、三日に会いましょうなど)

3・持続行為(床に座る、地面に寝るなど)

4・目的語(彼に渡す、あなたにあげるなど)

は「に」。

1・活動場所(家で休む、公園で遊ぶなど)

2・手段・方法・材料(電車で移動する、鉛筆で描く、粘土で作るなど)

3・原因(風邪で寝込む、津波で壊れるなど)

は「で」を使いますが、短歌ではこの「で」の働きを「に」がまとめて引き受けてくれます。

 

じゃあとりあえず全部「に」にしておけば安全ね、というとそれはちょっと安直すぎます。「に」の多くは「へ」に言い換えることも出来るからです。

上の表で「に」が担っている1~4と「で」の1は「へ」とも言い換えられます。

「に」と「へ」。意味としてはほぼ変わらないので感覚的な選択になることが多いのですが、歌のニュアンスはかなり変わります。

「家に帰る」「家へ帰る」、「海に浮かぶ」「海へ浮かぶ」、「空に飛んでゆく」「空へ飛んでゆく」など。意味は変わらないのですが、なーんとなく「に」はより限定的で強く、「へ」はより広く淡いようなイメージになりませんか。

また調べ(響き)にも違いが出ます。鼻にかかる音「ニ」よりも「エ(正確には子音hをほんの少しだけ含むエ)」の方がすっきり、それでいて柔らかな音(子音hの要素を僅かに含むため)となるからです。

自分のイメージはどちらに近いのか。「に」と「へ」はどちらも一度入れ替えて試してみるとよいでしょう。

 

また「て」や「に」などはちょっと間延びした印象を与える音です。繰り返し使うとその印象はより目立ちます。一首の中で二回出てきてしまったらどちらかを言い換えられないか考えてみましょう。

短歌ではなるべくなら濁音助詞は使わない、間延びする音を多用しないということを念頭に置きつつ、色々と試してみて一番ピンと来るものを選びましょう。

 

☆必要な助詞は字余りでも入れる。

☆濁音の助詞は変えられないか考える。

☆「に」と「へ」は両方試してみる。

☆「の」以外の助詞は被らないように考える。

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