短歌厚木水甕 澪の会

神奈川県厚木市の短歌会「澪の会」のブログです

*各評は講師の砂田や会の皆様から出た意見をブログ管理人(畠山)が独自にまとめたものです。各歌の著作権は各作者にあり、ブログ内で例として挙げた歌で著者名を記していないものの著作権は私(畠山)にありますので、そのまま真似してどこかに投稿したりは絶対にしないでくださいね。尚、「こう直したらどうでしょう・こんな感じに歌ってみたらどうでしょう」として書いている歌はその歌の原作者様(各歌の()内の名前の方)に著作権があるものとします。

◆歌会報 2021年7月 その2

13・合唱す田のさざ波五線譜にカエルの集い明日は豊作(小夜)

水田のさざ波を五線譜にしてカエルがにぎやかに鳴いている。明日は豊作かな、という田園地帯に住む作者の歌。田のさざ波を五線譜に見立てるところはとても面白い。

ただ結句の「明日は豊作」がいささか唐突すぎる。ここは田のさざ波を五線譜にカエルが歌うまでで一首としたい。

また音数的にもさざ波「を」五線譜に、と助詞の「を」を入れたい。

「蛙らは田のさざ波を五線譜に今日も賑やかに合唱したり」などとしてはいかがだろうか。

カエルの表記もカエル、蛙と比べてみて欲しい。カタカナは明るくハッキリした感じになるが多用すると短歌的でなくなるので注意。カタカナ表記は一首に一つまでに抑えたいところ。

 

14・コロナ禍を戦争みたいと言う吾に悲惨飢えを説く人ありて(山口)

コロナ禍で緊急事態宣言が発令され、買い占めが発生したり自粛で自由に出歩くことができないことを「戦争みたい」と言った作者に、「戦争はこんなもんじゃない」と当時の悲惨さや飢えを説いて聞かせる戦争経験者がいたという歌。

悲惨「と」飢えというように「と」の助詞が必要。また悲惨と飢えだと意味が被ってしまう感もあるので、ここは説いた人のセリフということにして「悲惨と飢え」と括弧で括ってしまいたい。また結句は「説く人のあり」と流さず止めたい。

 

15・田畑消え新しい土地広がってつばめは低く道案内す(金澤)

開発により以前は田畑が広がっていた場所が新しい土地…住宅地だろうか…に変わった。渡って来たツバメがそんな一方的な変化にもちゃんと対応して、まるで道案内するかのように低く飛んで建物の間を上手く抜けてゆく様子が伺える。

情景や気付きの目の付け所はとても良い。ただ「新しい土地広がって」という口語はこの歌にはどうだろうか。「新しい土地の広がりを」としてはどうだろう。

 

16・病持つ友の絵葉書字の乱れ急に進みて間遠の不安(飯島)

手書き文字には文字の内容以外にも色々な情報がある。定期的に絵葉書をくれていた遠方の友人の文字がこのところ急に乱れてきて、友人の健康状態を心配する作者の心が見てとれる。

実際は手書きの絵葉書らしいが、ここでは「友の葉書の」として助詞を足しつつ音数を合わせてしまっていいのでは。また「間遠(まどお)」という言葉が要るかどうか。そこに意味を持たせず「不安が募る」として感情の方を押し出してはどうか。

 

17・長雨にノウゼンカズラの濡れ姿 白き空へと登る橙(鳥澤)

ノウゼンカズラhttps://g.co/kgs/UZs7Nv

長雨が続く中、白く煙ったような梅雨空へ雨に濡れつつも鮮やかな橙色の花が登るように咲いているという歌。実際は枝垂れて咲いているのだが、「白き空へと登る」ように咲いていると見る作者の視点が面白い。

「白き空」が見たままの薄曇りの梅雨空のことなのか、何か心的な意味を持たせている色なのかで意見が割れたがどうなのだろう。

 

18・突然に納得無しに友の訃は黴雨の夜ふかく忍冬匂えり(緒方)

忍冬(にんどう・別名スイカズラ)(https://g.co/kgs/PoCzDe

突然に黴雨(つゆ。梅雨と同じ)の深夜に友人の訃報が届いた夜。渦巻く感情のなか、忍冬(スイカズラ)の匂いがした、という歌。

「納得なしに」という部分に作者らしさが表れる。前々から入院していたとかではなく、突然だったのだろう。色々と渦巻くであろう感情を一旦突き放して「忍冬が匂う」としたところが巧み。

「友逝きぬ」として上の句で区切ってはどうか。また結句は「忍冬匂う」として音数を整えたい。

 

19・伊豆山の無情の雨は山壊す天を怒らせ人災起こる(栗田)

違法な盛り土のせいで大災害になってしまった熱海の災害を歌ったもの。作者はこのニュースにとてもショックを覚えたものと思うが、ニュースを題材に詠むのはどうしても一般的になりがちで個別化が難しいので注意も必要。

ニュースのどの部分に感情を動かされたのか。崖が崩れるところか、崩れたあとの様子か。崩れた崖を見てどう思ったか、泥にまみれて探索する人をどう見たか、など作者ならではの視点が欲しい。

この歌に関しては「無情の雨は」を「雨が」として強く言ってしまってはどうか。

 

20・梅雨晴間里山深く遠目にてオレンヂの花姫檜扇よ(戸塚)

姫檜扇(ひめひおうぎ)(https://g.co/kgs/PBAqm1

梅雨の晴間の里山深くに遠目にも見えているあのオレンジ色の花は姫檜扇よ。

オレンジ色の花といっても数多くある。遠目にも分かるということは作者の好きな花なのではないだろうか。その花が鬱々とした梅雨の晴間にひょっこり目に入って嬉しい作者の感情を感じる。

梅雨晴間「の」と字余りでも助詞が欲しい。また「梅雨の晴間」という意味の単語「梅雨晴(つゆばれ)」があるので、「梅雨晴の」としてしまえば初句の五音にすっきりまとまる。

また「遠目にて」は少しおかしい。「遠目」には「見る(判別する)」という動詞がセットで付かないと落ち着かない。ここは「里山深く見えており」として切ってしまおう。

 

21・ありがとうブレーキランプの点滅と香る白バラほっこり嬉し(大塚)

割込みをさせてもらった時に入れてもらった車がありがとうの意味で非常灯を数回だけ点滅させる「サンキューハザード」。日本独自の行動らしい。

作者はこれに譲り合いの精神と感謝を感じてほっこり嬉しくなったのだろう。

だがそうなると「香る白バラ」が謎。車の中に居るのにバラの香がするの?となってしまう。サンキューハザードを見ているから作者は道を譲った側のドライバーなのかと思いきや、実際は白バラ香る道を散歩していて出会った光景だと言う。

しかしこの三十一音でそこまでは読み取れない。ここは白バラには辞退していただき、譲り合いの優しい世界に嬉しくなったことで一首まとめたい。

 

22・二回目のワクチン接種終へ夫(つま)が護符のごと飲むアセトアミノフェン(小幡)

コロナ禍の一世情を詠んだ一首。「護符のごと飲む」が面白い。副反応は二回目の接種のあとの方が強く出ると聞くし、強い副反応が出ませんように、もしくは早く治まりますようにと祈るように飲んでいるのだろう。

この新型コロナに関してはロキソプロフェン系やイブプロフェン系では悪化する可能性があるということでアセトアミノフェン系の解熱剤が推奨されている。作者はその辺りの情報を得てコロナに備え薬を用意したのではないだろうか。*但しワクチン副反応での発熱にはどの解熱剤でも構わない。

とはいえ護符のごと(笑)熱が出る前に飲んでしまっては良くないので現実としては注意していただきたい。

そして今はコロナ禍で「アセトアミノフェン」という言葉もそこそこ知られているが、ある程度時間を経てからこの言葉がどれだけ通じるだろうか。

「解熱剤」としてしまえばその問題はクリアできるが、それでは無難になって作品としての面白みが減ってしまう気もする。

 

23・阿夫利嶺の青葉若葉の風降りてマーガレットの群涼しかりけり(名田部)

阿夫利嶺(あふりね)から爽やかな初夏の風が下ってきて、マーガレットの群も涼しそうだという歌。初夏の爽やかな景色が見えて来る。

「風降(ふ)りて」は「風降(くだ)り」として「て」は省いてしまいたい。また「涼しかりけり」は日本語としておかしい。もっと自然な言葉で。「マーガレットをさやさや揺らす」と情景を具体的に描写して涼やかさを表現したい。

 

24・捩花の螺旋を辿り蟻が行くおとぎ話の塔登るごと(畠山)

捩花(ねじばな・別名モジズリ)(https://g.co/kgs/aETdR9

捩花のピンク色の螺旋をお伽噺の塔を登るように蟻が辿ってゆくというややミクロな目線で見た自然のワンシーン。

「おとぎ話の塔」がもっと具体的な方が想像しやすいのでは、という意見が出、作者のイメージとしては「眠り姫の塔」ということでまとめることに。

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